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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)171号 判決

東京都新宿区早稲田鶴巻町四二番地

原告

新宿民主商工会

右代表者会長

岩井作太郎

同都同区戸山町四三の三

原告

柳坂忠義

同都同区本塩町二二

原告

小林昭

同都同区西新宿六丁目一一番二六号

原告

橋川寅之助

右原告四名訴訟代理人弁護士

中村洋二郎

井上文男

高橋融

中西克夫

小林亮淳

弁護士中西克夫訴訟復代理人弁護士

福地絵子

同都千代田区霞が関一丁目一番一番

被告

右代表者法務大臣

古井喜実

同都新宿区三栄町二四番地

被告

淀橋税務署長

橋本博次

右被告三名訴訟代理人弁護士

島村芳男

右被告三名指定代理人

齋藤健

藤原嘉民

古俣与喜男

酒井保一

中川昌泰

小笠原英之

横尾継彦

辰尾明吉

主文

原告らの各請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  請求の趣旨

1  被告国は原告民主商工会に対し金一一万円及びこれに対する昭和四二年一〇月二八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を、原告柳坂忠義、同小林昭、同橋川寅之助に対し各金三万円及びこれに対する昭和四二年一〇月二八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  被告四谷税務署長が原告柳坂忠義の昭和三九年分所得税及び原告小林昭の昭和三八年分、同三九年分所得税についてした別紙一(一)(二)記載の各更正処分及び過少申告加算税賦課処分並びにこれら各処分についての異議申立に対する各決定をいずれも取り消す。

3  被告淀橋税務署長が原告橋川寅之助の昭和三八年分、同三九年分所得税についてした別紙一(三)記載の各更正処分及び過少申告加算税賦課処分をいずれも取り消す。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨

第二原告らの請求原因

一  原告新宿民主商工会(以下「原告新宿民商」又は「新宿民商」といい、民主商工会を「民商」という。)は主として新宿区内の中小工業者によって組織されている団体であり、その余の原告らはいずれも新宿民商の会員であり、昭和三八、九年当時原告柳坂は洋服仕立業、原告小林は製本業、原告橋川は日本そば・うどん店をそれぞれ営んでいた者である。

二  取り消さるべき行政処分

1  原告柳坂は昭和三九年分所得税につき、原告小林、同橋川は昭和三八年分及び昭和三九年分所得税につき、それぞれ別紙一の処分一覧表(一)ないし(三)の各確定申告欄記載のとおり申告をしたところ、原告柳坂、同小林については被告四谷税務署長(以下四谷署長」という。)により、原告橋川については被告淀橋税務署長(以下「被告淀橋署長」という。)により、それぞれ同表各更正処分欄記載のとおり更正及び過少申告加算税賦課決定がされた。右原告三名は右処分につき異議申立をしたが、同表異議決定欄記載のとおり、原告柳坂については棄却、同小林については一部取消の決定があり、同橋川については異議申立が審査の請求とみなされた。そして、同原告らの審査請求に対しては、同表裁決欄記載のとおり一部取消の裁決がされたにとどまった。

2  しかしながら、前記各更正処分及び過少申告加算税賦課処分(但し、異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの。以下「本件更正処分」という。)並びに異議決定はいずれも違法であるので、その取消を求める。

三  損害賠償請求の内容

1  民商弾圧政策

被告国は、昭和三五年以降のいわゆる高度成長政策に沿って中小商工業者に対し苛酷な重税措置をとり、昭和三七、八年ころから各地の民商に対し各税務署を通じて激しい組織破壊、脱会工作を行ったが、特に昭和三八年五月ごろ当時の国税庁長官は、三年で民商をつぶす方針を立て、この目的の下に全国の国税局に対し民商会員について徹底的な調査をするよう通達した。そして、東京国税局直税部長は、右通達に基づき管内の各税務署長に対し調査妨害のあったものについては十分な調査をせよ、税理士資格のない民商事務局員及び同会員の立会を排除せよ、調査に赴く旨の事前通知は行うな等の指示をした。

2  原告新宿民商に対する結社の自由の権利侵害等

被告四谷署長所部の係官である武井、中尾、小杉、本村は、昭和四〇年九月ころから昭和四一年にかけて、

(一) 新宿民商が「脱税団体」「非協力団体」「妨害団体」であるなどと記載した文書を新宿民商会員に送付して原告新宿民商を中傷、誹謗し、

(二) 「民商をやめろ、娘の嫁のもらい手がなくなる。」「息子の就職にも影響する。」などの脅し言葉や、「民商をやめれば修正申告をしなくともよい。」などの甘言を新宿民商会員に告げて脱会させ、また、いやがらせ的事後調査をして、組織破壊工作を重ねた。

3  民商弾圧政策に基づく違法な調査等

(一) 被告四谷署長所部の係官は、昭和四〇年九月一五日事前に連絡もなく突然原告柳坂方に臨場し、同原告に昭和三九年分の所得税申告資料の呈示を求め、同原告が当日は見当らないから探しておく旨約束したにもかかわらず、同日中に反面調査を行って同原告の取引先等に対する信用を失墜させた。

(二) 被告四谷署長所部の係官は、昭和四〇年九月二日事前に連絡もなく突然原告小林方に臨場し、同原告に新宿民商への入会の時期、理由を質問し、父親が会員であるので入会した旨の回答を得るや、同原告が翌日までに他に預けてある帳簿を取り寄せて同係官へ呈示する旨約束したにもかかわらず、同日中に反面調査を行って同原告の取引先等に対する信用を失墜させた。

(三) 被告淀橋署長所部の係官は、昭和四〇年九月事前に連絡もなく突然原告橋川方に臨場し、同原告に所得税申告資料の呈示を求めたので、同原告はこの求めに応じて請求書、領収証のすべてを同係官に呈示した。したがって、同原告の仕入額については右領収証を集計すれば容易に実額が把握でき、仕入先に対する反面調査などは全く必要がないにもかかわらず、同年一一月ないし一二月に仕入先に対する反面調査を行って同原告の取引先等に対する信用を失墜させた。そして更に、同年一二月ころ管内の同業者を集めて修正申告を求めた際にも、同原告が民商会員であるとの理由で右集会から除外した。

右(一)ないし(三)の経過からすれば、同原告らに対する本件の調査並びに更正処分が、同原告らの確定申告に対する合理的な疑いについて調査し、それに基づいて行われたものではなく、もっぱら同原告らを新宿民商から脱会させるため又は同原告らが新宿民商から脱会しないことに対する報復のためにされたものであることが明白である。

4  よって、国家賠償法に基づき、原告新宿民商は被告国に対し結社権の侵害及び名誉毀損、社会的評価の侵害による損害の賠償として、総額二〇〇万円のうち一一万円、原告柳坂、同小林、同橋川は各自に対する結社権の侵害、不法な調査及び本件更正処分による精神的損害の賠償として各三万円、並びに右各金員に対する不法行為後である昭和四二年一〇月二八日から支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告らの認否

一  請求原因一は認める。

二1  同二1は認める。

2  同二2は争う。

三1  同三1及び2は否認する。

2  同三3(一)のうち、被告四谷署長所部の係官が原告柳坂主張の日に同原告方に臨場した際、同原告が資料は見当たらない旨答えたこと、同係官が反面調査をしたことは認めるが、その余は争う。

同三3(二)のうち、被告四谷署長所部の係官が原告小林主張の日に同原告方に臨場した際、同原告が帳簿は他に預けてある旨答えたこと、右係官が反面調査をしたことは認めるが、その余は争う。

同三3(三)のうち、被告淀橋署長所部の係官が原告橋川主張のころ同原告方に臨場した際、同原告が請求書、領収証(但し、すべてではなく、ごく一部のもの)を同係官に呈示したことは認めるが、その余は争う。

第四被告署長らの主張

一  推計の必要性

本件更正処分は原告柳坂、同小林、同橋川の本件各係争年分の所得金額を推計によって算定したものであるが、次に述べる調査の経緯に照らせば、実額を把握することができないので、推計によって算定するのが相当である。

(原告柳坂について)

1 原処分時の調査

被告四谷署長所部の係官は、昭和四〇年九月一五日調査のため同原告方に臨場し、同原告の確定申告に係る所得金額の計算内容を明らかにする帳簿書類の呈示を求めたが、同原告は、収支計算書と覚しきメモ一枚と注文寸法帳二冊を提出したのみで、「売上や仕入を記録した帳簿はない。」「仕入に関する資料はあると思うが、探してみないと分らない。」などと答えて申告の計算根拠を明らかにする資料を呈示せず、同係官が同月一八日再度同原告方に臨場した際には、民商事務局員を同席させたうえ、「申告時の資料はないし、雇人費、外注費についても分らない。」旨の返答を繰り返すのみであった。

2 異議申立における経過

同被告所部の係官は、異議申立の審理を行うため昭和四一年五月一六日同原告方に臨場し、同原告に対して帳簿書類及び異議申立書に添付されていた収支明細書の計算根拠を明らかにする資料の呈示を求めたところ、同原告は、注文寸法帳二冊を呈示したのみであり、同係官の質問に対して、売上金額は仕入を基準にして計算した旨答えたものの、具体的にどのように計算したかについては説明しようとせず、経費の計算根拠についても、「請求書や領収書の合計によって計算したが、その請求書等は紛失してしまった。」などと答えるのみであった。

3 審査請求における経過

同原告は、昭和四一年六月一三日東京国税局長所部の担当協議官に対し、「売上金額は仕入金額に粗利益率四割八歩程度で換算してくれるよう新宿民商に頼んだ。」などと説明し、その後、仕入関係の請求書や納品書、領収証などの一部を呈示しただけであった。

(原告小林について)

1 原処分時の調査

被告四谷署長所部の係官は、昭和四〇年九月三日、四日の両日調査のため同原告方に臨場し、同原告の確定申告に係る所得金額の計算内容を明らかにする帳簿書類の呈示を求めたところ(同月二日に臨場した際に知人方に預けてあるとのことであったので、その取寄方を依頼しておいたものである。)同原告は、昭和三九年三月一日から同年一二月三一日までの収支を記録した帳簿とをその裏付となる納品書、請求書、領収証などは呈示したが、それ以前の昭和三九年一、二月分及び昭和三八年分については帳簿を備えつけておらず、また、原始記録も呈示しなかった。

2 異議申立における経過

同被告所部の係官は、異議申立の審理を行うため昭和四一年七月二七日同原告方に臨場し、昭和三八年、同三九年分の請求書及び領収証の控などの呈示を求めたが、同原告は、探してみないとあるかないか分らない旨述べて右書類は一切呈示しなかった。

3 審査請求における経過

東京国税局長所部の担当協議官は、昭和四二年二月九日、一五日、二四日の三回にわたり同原告方に臨場したが、同原告は、昭和三九年三月から同年一二月までの取引を記録した帳簿並びに裏付資料を呈示しただけであり、また、たな卸資産の在高についての質問に対しても、申告と矛盾するような答弁をし、たな卸資産の明細書はないといって提出しなかった。

(原告橋川について)

1 原処分時の調査

被告淀橋署長所部の係官は、昭和四〇年九月ころ調査のため同原告方に臨場し、同原告の確定申告に係る所得金額の計算内容を明らかにする帳簿書類の呈示を求めたところ、同原告は、帳簿はないといって請求書や領収証などごく一部の断片的な資料のみを呈示し、同係官の質問に対しては、終始要領を得た返事をしなかった。同係官はその後も数回にわたって臨場の連絡をしたが、同原告は、その都度所用を理由に断わり又は不在であった。

2 異議申立における経過

同被告所部の係官は、異議申立の審理を行うため昭和四一年一一月二四日同原告方に臨場したところ、同原告は昭和三八年分の領収証や納品書の一部(約半月分)を呈示したが、昭和三九年分については極力整理しておくからというだけで全く呈示せず、同係官が同年一二月一二日同原告方に臨場した際にも、同原告は書類はなお整理中である旨述べるにとどまり、調査が不可能であった。

3 審査請求における経過

東京国税局長所部の担当協議官は、昭和四二年四月一七日同原告方に臨場し質問したところ、同原告は、「売上金額についての記録はないが、仕入金額や経費については各月別に集計したものと領収証を保存している。しかし、これらを担当協議官に貸すわけにはいかないので、同原告において仕訳して集計を出しておく。」旨答えたが、その後担当官が右集計の結果を問い合わせても一切協力せず、資料の提出はなかった。

二  本件更正処分の根拠

(原告柳坂について)

原告柳坂の昭和三九年分の所得金額は、次表のとおり一七四万八九五七円であり、本件更正処分における所得金額一四七万八九五七円であり、本件更正処分における所得金額一四七万四六一一円を上まわっている。

〈省略〉

1 右表の売上金額は、その実額を把握することができないので、実額により算出した売上原価二三〇万七八七八円に次に述べる同業者の売上差益率五九パーセントを適用して推計したものである。

二三〇万七八七八円÷(一-五九%)=五六二万八九七〇円

2 売上差益率の認定方法

被告四谷署長は、管内に事業所を有する個人の青色申告者で業種目が洋服又は洋服仕立となっているものの中から原告柳坂と業態規模を著しく異にすると思われる次のものを除外して売上差益率を調査した。

イ 既製服のみの販売を行う者

ロ 加工を専門とする者

ハ 婦人服のみの製造、販売加工を行う者

ニ 年間を通じて営業をしていない者

ホ 仕入金額が一一五万三〇〇〇円(同原告の仕入金額の約半額)未満の者と四六一万五〇〇〇円(原告の仕入金額の約二倍)を超える者

ヘ 裁断のみ行って仕立を外注にしている者

ト 服地の処分販売を行っている者

右調査によって抽出された同業者一一名について集計を行った結果次の表が得られ、売上差益金額合計を売上金額合計で除すると、その平均売上差益率は五九パーセントとなる。

〈省略〉

〈省略〉

(原告小林について)

原告小林の所得金額は、次表のとおり昭和三八年分が三一〇万四一七〇円、昭和三九年分が四六九万一四九八円であり、本件更正処分における所得金額昭和三八年分一三二万五九一〇円、昭和三九年分一七九万七〇〇〇円を上まわっている。

〈省略〉

△印は赤字額を示す。

(昭和三八年分)

1 売上金額 七六四万〇五四一円

その内訳は次表のとおりである。

〈省略〉

2 事業所得金額 三〇〇万〇四四〇円

必要経費の実額が判明しなかったので、次のような推計によったものである。すなわち、被告四谷署長の管内においては、原告小林の営む青写真製本業は業者の数も稀少であり、昭和三八年分については昭和三八年分については昭和三九年分と著しい業況の差異があったとは認められない状況で同原告が営業をしていたので、後述する昭和三九年分と同じ所得率(売上金額に対する所得金額の割合)三九・二七パーセントを売上金額に乗じて昭和三八年分の事業所得金額を算出した。

3 不動産所得 一〇万三七三〇円

同原告の申告した二階間貸分六万八〇〇〇円に、斉藤正一は対する作業場賃貸分三万五七三〇円(収入額四万五〇〇〇円、所得割合七九・四パーセント)を加算したものである。

(昭和三九年分)

1 売上金額 一一四八万一〇二六円

その内訳は次表のとおりである。

〈省略〉

2 事業所得金額 四五〇万八五九八円

原告小林は昭和三九年三月一日から同年一二月三一日までの収支計算を行っていたので、それに税務上の必要な修正を加え、これを基礎にして右期間の所得率三九・二七パーセントを求め、この所得率を昭和三九年一月一日から同年一二月三一日までの同原告の売上金額に乗じて得られた金額をもって右事業所得金額と推計した。以下、右所得率の算定根拠を詳述する。

(一) 同原告の作成した昭和三九年三月一日から同年一二月三一日までの期間の収支計算とこれについて税務上の必要な修正を行った収支計算を対比すれば、次表のとおりである。

〈省略〉

右表のうち原告小林の計算に修正を加えた科目の計算根拠は次のとおりである。

(1) 売上収入 一〇〇六万一三八七円

被告四谷署長の計算による右売上収入の内訳は次表のとおりである。

〈省略〉

(2) 雑収入 〇円

原告小林が計算した雑収入一万六八四六円は銀行預金に対する利子収入であるから計上しない。

(3) 期末たな卸 〇円

(4) 期首たな卸 〇円

原告小林が計算した期末たな卸高四一万三一九五円、期首たな卸高一五万六九〇七円は、期首期末同額とみて計算から除外する。

(5) 公租公課 六万七五五〇円

当該期間中に納付した公租公課七万三二二〇円中、固定資産税、都市計画税は昭和三九年六月二六日一〇〇〇円、同年七月六日一〇〇〇円、同年一〇月二九日九三四〇円の合計一万一三四〇円であるが、当該固定資産の事業占用割合は五割と認められるから、右一万一三四〇円の五割相当額五六七〇円のみを必要経費とし、残額五六七〇円は必要経費とし、残額五六七〇円は必要経費に算入しない。

(6) 支払利息 一一万五三三八円

当該期間に対応する支払利息の額は次表のとおりである。

〈省略〉

右表の借入金中、(イ)(ロ)(ハ)(ニ)は原告小林の新宿区本塩町二二に所在する居宅兼作業所の土地取得及び建物建築の資金に投入したものであり、当該土地及び建物は事業用と居宅用とに併用されているので、右借入金に対する支払利息一八万六三八四円についても、この金額に事業占用割合である五割を乗じて得られた九万三一九二円を必要経費に算入し、その他の借入金に対する支払利息の金額二万二一四六円を加えた合計一一万五三三八円を必要経費と認めた。

(7) 車輛売却損 〇円

原告小林が計算した車輛売却損九万五〇〇〇円は譲渡所得に係る譲渡損失として別途に計算し、事業所得の計算から除外した。

(8) 減価償却費 二〇万七四五二円

被告四谷署長の計算による減価償却費は次表のとおりである。

〈省略〉

(二) 所得率 三九・二七パーセント

右(一)の修正された収支計算額中の利益欄の三九五万一九四九円を売上収入欄の一〇〇六万一三八七円で除したものである。

3 不動産所得 二七万七九〇〇円

同原告の申告した二階間貸分一三万五〇〇〇円に、斉藤正一に対する作業場賃貸分一四万二九〇〇円(収入額一八万円、所得割合七九・四パーセント)を加算したものである。

4 譲渡所得 △九万五〇〇〇円

前記2(一)(7)に述べた車両売却損九万五〇〇〇円を譲渡損として計上した。

(原告橋川について)

原告橋川の所得金額は、次表のとおり、昭和三八年分が一二〇万七九三二円、昭和三九年分が一一〇万八七九二円であり、本件更正処分における所得金額昭和三八年分一一四万四九九七円、昭和三九年分九七万六八四一円を上まわっている。

〈省略〉

(昭和三八年分)

1 売上金額 五五二万四二六〇円

その内訳は次表のとおりである。

〈省略〉

(一) 玉うどん及び店売用うどん・そばの売上金額

原告橋川の小麦粉及びそば粉の年間仕入袋数からたねもの・打粉に使用される袋数を差し引き、残袋数に一袋当たりからとれる食数を乗じて年間の玉うどん、店売用うどん・そばの総食数を算出し、これから自家消費量を控除した食数に一食当たりの売上単価を乗じ売上金額を推計した。以下、具体的に説明する。

(1) 小麦粉・そば粉の仕入袋数及び年間総食数

昭和三八年中の小麦粉の仕入袋数は北東製粉株式会社から二四七袋、淀橋麺業組合から一九五袋、合計四四二袋であることが判明しているが、そば粉の仕入袋数が不明であるので、小麦粉の仕入袋数からそば粉の仕入袋数を合理的に算定し、小麦粉及びそば粉の仕入袋数を基礎にして玉うどん、店売用うどん及び店売用そばの各食数を計算すると、次のとおりとなる。

まず、原告橋川の店においては、玉うどんと店売用うどん・そばの販売数量割合は四〇パーセントと六〇パーセントであり、更に、店売用うどん・そばのうどんとそばの割合は五〇パーセントずつであるから、結局、玉うどん、店売用うどん及び店売用そばの販売数量割合はそれぞれ四〇パーセント、三〇パーセント、三〇パーセントとなる。また、同原告がそばを製造する場合のそば粉と小麦粉の混合割合は一対一である。そして、たねもの・打粉に使用される小麦粉の袋数は月平均一袋、年間で一二袋と推定される。したがって、小麦粉の仕入袋数四四二袋から右一二袋を控除した四三〇袋が玉うどん、店売用うどん及び店売用そばの製造に使用されたことになるので、小麦粉一袋当たり(そばについては小麦粉半袋プラスそば粉半袋)の食数が右三者間に差異がないとすると、右小麦粉四三〇袋は、玉うどん四、店売用うどん三、店売用そば一・五(そばについては小麦粉半袋とそば粉半袋で製造されるから、小麦粉のみについてみれば三〇パーセントの二分の一となる。)の割合で使用されたこととなる。しかし、小麦粉一袋からとれる食数は三者同じではなく、玉うどんと店売用そばについては二〇〇食、店売用うどんについては二三〇食であると認められるので、これによって前記四三〇袋の小麦粉が玉うどん、店売用うどん及び店売用そばの製造に使用された数量割合を修正すれば、玉うどん四、店売用うどん二・六一、店売用そば一・五となる。

小麦粉四三〇袋のうち玉うどんに使用される割合四÷(二〇〇食÷二〇〇食)=四

小麦粉四三〇袋のうち店売用うどんに使用される割合三÷(二三〇食÷二〇〇食)=二・六一

小麦粉四三〇袋のうち店売用そばに使用される割合一・五÷(二〇〇食÷二〇〇食)=一・五

そうすると、玉うどん、店売用うどん及び店売用そばに使用された小麦粉の袋数は、次の算式により求められる。

玉うどん 四三〇袋×〔四÷(四+二・六一+一・五)〕=二一二袋

店売用うどん 四三〇袋×〔二・六一÷(四+二・六一+一・五)〕=一三八袋

店売用そば 四三〇袋×〔一・五÷(四+二・六一+一・五)〕=八〇袋

合計 四三〇袋

また、前記のとおり、そばを製造する場合のそば粉と小麦粉の混合割合は一対一であるので、原告のそば粉の仕入袋数は、そばの製造に使用された小麦粉と同数の八〇袋となるから、右小麦粉及びそば粉の仕入袋数を基礎として食数を計算すると、玉うどんは四万二四〇〇食(二一二袋×二〇〇食)、店売用うどんは三万一七四〇食(一三八袋×二三〇食)、店売用そばは三万二〇〇〇食〔(八〇袋+八〇袋)×二〇〇食〕、合計一〇万六一四〇食となる。

(2) 自家消費食数 二四九〇食

原告橋川の家族は同原告を含めて五名であり、雇人は住込一名、通い一名である。自家消費は、家族五名と住込の雇人一名計六名について一人一日一食として年間食数は二一九〇食(六食×三六五日)、通いの雇人について年間稼働日数三〇〇日、一日一食として年間食数は三〇〇食となり、合計二四九〇食である。

(3) 玉うどんの売上金額 四一万四六〇〇円

加工麺類の総食数一〇万六一四〇食から自家消費量二四九〇食を差し引くと一〇万三六五〇食となるが、原告橋川の場合は、玉うどんの販売数量が麺類の販売数量に占める割合は前記のごとく四〇パーセントであり、玉うどん一食当たりの売上単価は一〇円であったから、玉うどんの売上金額は四一万四六〇〇円(一〇万三六五〇食×〇・四×一〇円)となる。

(4) 店売用うどん・そばの売上金額 三六三万四三八三円

店売用うどん・そばの販売数量割合六〇パーセントを前記一〇万三六五〇食に乗じて店売用うどん・そばの販売食数六万二一九〇食を算出し、これに別紙二1のとおりにして求めた平均売上単価五八円四四銭を乗じると、店売用うどん・そばの売上金額は三六三万四三八三円となる。

(二) 冷麦の売上金額 八万七五〇〇円

原告橋川の申立による冷麦の年間仕入数量一〇箱ないし一五箱の平均をとり冷麦の年間仕入数量を一二・五箱と推定した。一箱は一〇〇食入りであるから、冷麦の年間販売食数は一二五〇食と推定される。そして、淀橋麺業組合の協定価格によれば、昭和三八年当時は一食当たり七〇円となっているから、売上金額は八万七五〇〇となる。

(三) 飯物の売上金額 一一三万二九七七円

原告橋川の米の年間仕入数量を飯物一食当たりの米の必要数量で除して飯物の販売食数を算出し、これから自家消費量を差し引いた食数に飯物一食当たりの平均売上単価を乗じて売上金額を推計した。

(1) 米の年間仕入数量 一万六八〇〇合

原告橋川の米の月間平均仕入数量は三・五俵であるから、年間仕入数量は四二俵すなわち一万六八〇〇合となる。

(2) 一食当たりの米の必要数量 一合

別紙三のとおり一合である。したがって、年間の総食数は一万六八〇〇食となる。

(3) 自家消費食数 四六八〇食

飯物の自家消費量は家族五名と住込の雇人一名計六名について一人一日二食として年間食数は四三八〇食(一二食×三六五日)、通いの雇人一名については稼働日数三〇〇日、一日一食として年間食数は三〇〇食となり、合計四六八〇食である。

(4) 平均売上単価 九三円四八銭

別紙四1のとおりにして求めた額である。

(5) 飯物の売上金額 一一三万二九七七円

(一万六八〇〇食-四六八〇食)×九三円四八銭=一一三万二九七七円

(四) 飲物の売上金額 二五万四八〇〇円

次表のとおり、飲物の種類別年間仕入本数にそれぞれの売上単価を乗じて売上金額とした。

〈省略〉

2 売上原価 二六七万六二二八円

原告橋川の店は近辺にアパートが多く、玉うどんの売上が多いのが他の同業者と異なるところである。そこで、売上の原価構成については玉うどんを特別に取り扱ってその原価を算出し、その他の種目についてはそれぞれの売上金額の合計額に同業者の原価率を乗じてその原価を推計した。

(一) 玉うどんの売上原価 二二万八一九〇円

玉うどんに使用された小麦粉の仕入原価をもってその売上原価とした。すなわち、玉うどんの販売食数四万一四六〇食を小麦粉一袋当たりの食数二〇〇食で除すると、玉うどんに使用された小麦粉の袋数二〇七・三袋が求められ、また、小麦粉全体の仕入金額四八万六五四〇円を前記仕入袋数四四二袋で除すると、一袋当たりの仕入単価一一〇〇円七七銭が得られるので、右両者を乗じた二二万八一九〇円が玉うどんの売上原価となる。

(二) 玉うどん以外のものの売上原価 二四四万八〇三八円

売上金額五五二万四二六八円から玉うどんの売上金額四一万四六〇〇円を差し引いた玉うどん以外のものの売上金額五一〇万九六六〇円に、別紙五の同業者の平均原価率四七・九一パーセントを乗じて玉うどん以外のものの売上原価を推計すると、二四四万八〇三八円となる。

3 一般経費 九四万四六四八円

売上金額五五二万四二六〇円に別紙五から得られる同業者の一般経費率〇・一七一(平均差益率〇・五二〇九-平均所得率〇・三四九九=〇・一七一)を乗じて一般経費を九四万四六四八円と推計した。

4 雇人費 五二万八〇〇〇円

原告橋川申立による給与支給総額による。

5 建物減価償却費 一万二八五二円

原告橋川提出の昭和三七年分所得税青色申告決算書記載の償却額一万二八五二円をもって昭和三八年分償却額とした。

6 事業所得金額 一一四万一二八二円

右1の売上金額五五二万四二六〇円から右2の売上原価二六七万六二二八円と右3の一般経費九四万四六四八円とを控除して算出所得金額一九〇万三三八四円を得、これから右4の雇人費五二万八〇〇〇円、5の建物減価償却費一万二八五二円及び専従者控除二二万一二五〇円を差し引くと、事業所得金額は一一四万一二八二円となる。

7 配当所得 六万六六五〇円

原告橋川申立による同原告所有の東京電力株式会社の株式一三三三株に対する配当金六万六六五〇円が配当所得である。

(昭和三九年分)

1 売上金額 五七九万四三一七円

その内訳は次表のとおりである。

〈省略〉

(一) 玉うどん及び店売用うどん・そばの売上金額

算定方法は前記昭和三八年分と同様である。

(1) 小麦粉・そば粉の仕入袋数及び年間総食数

昭和三九年中の小麦粉の仕入袋数は北東製粉株式会社から三六五袋、淀橋麺業組合から三〇袋、池田製粉株式会社から二五袋、合計四二〇袋であり、これからたねもの・打粉に使用された袋数一二袋を控除した四〇八袋が玉うどん、店売用うどん及び店売用そばの製造に使用されたことになる。

そこで、昭和三八年分1(一)(1)で述べたと同様の計算方法によって玉うどん、店売用うどん及び店売用そばに使用された小麦粉のそれぞれの袋数を求めると、次のとおりとなる。

玉うどん 四〇八袋×〔四÷(四+二・六一+一・五)〕=二〇二袋

店売用うどん 四〇八袋×〔二・六一÷(四+二・六一+一・五)〕=一三一袋

店売用そば 四〇八袋×〔一・五÷(四+二・六一+一・五)〕=七五袋

合計 四〇八袋

そうすると、そば粉の仕入袋数もそばの製造に使用された小麦粉と同数の七五袋となるから、右小麦粉及びそば粉の仕入袋数を基礎として食数を計算すると、玉うどんは四万〇四〇〇食(二〇二袋×二〇〇食)、店売用うどんは三万〇一三〇食(一三一袋×二三〇食)、店売用そばは三万食〔(七五袋+七五袋)×二〇〇食〕、合計一〇万〇五三〇食となる。

(2) 自家消費食数 二四九〇食

昭和三八年分1(一)(2)と同様である。

(3) 玉うどんの売上金額 三九万二一六〇円

加工麺類の総食数一〇万〇五三〇食から自家消費量二四九〇食を差し引いた食数九万八〇四〇食に玉うどんの販売数量割合四〇パーセントを乗じて玉うどんの販売食数を求め、一食当たりの売上単価一〇円として計算すると、玉うどんの売上金額は三九万二一六〇円となる。

(4) 店売用うどん・そばの売上金額 三八三万〇六一八円

店売用うどん・そばの販売数量割合六〇パーセントを前記九万八〇四〇食に乗じて店売用うどん・そばの販売食数五万八八二四食を算出し、これに別紙二1の平均売上単価六五円一二銭を乗じると、店売用うどん・そばの売上金額は三八三万〇六一八円となる。

(二) 冷麦の売上金額 一〇万円

昭和三八年分1(二)と同様、年間仕入数量は一箱一〇〇食入りのもの一二・五箱、年間総販売食数は一二五〇食と推定した。そして、淀橋麺業組合の協定価格によれば、昭和三九年当時は一食当たり八〇円となっているので、売上金額は一〇万円となる。

(三) 飯物の売上金額 一二一万三九三九円

算定方法は昭和三八年分1(三)と同様であり、米の年間仕入数量を一万六八〇〇合、一食当たりの必要数量を一合、自家消費量を四六八〇食、販売食数一万二一二〇食、平均売上単価を一〇〇円一六銭として計算した。なお、右平均売上単価は、別紙四1のとおり被告淀橋署長の調査結果では一〇一円一九銭であるが、これに同四2のとおりの修正を加えた額である。

(四) 飲物の売上金額 二五万七六〇〇円

算定方法は昭和三八年分1(四)と同様である。

〈省略〉

2 売上原価 二七五万五七〇六円

(一) 玉うどんの売上原価 二二万四二五五円

算定方法は昭和三八年分2(一)と同様である。すなわち、玉うどんの販売食数三万九二一六食を小麦粉一袋当たりの食数二〇〇食で除して玉うどんに使用された小麦粉の袋数一九六・〇八袋を求め、また、小麦粉全体の仕入金額四八万〇三五〇円を仕入袋数四二〇袋で除して一袋当たりの仕入単価一一四三円六九銭を求め、両者を乗じた二二万四二五五円が玉うどんの売上原価となる。

(二) 玉うどん以外のものの売上原価 二五三万一四五一円

昭和三八年分2(二)と同様の方法により、売上金額五七九万四三一七円から玉うどんの売上金額三九万二一六〇円を差し引いた玉うどん以外のものの売上金額五四〇万二一五七円に、別紙六の同業者の平均原価率四六・八六パーセントを乗じて玉うどん以外の売上原価を推計すると、二五三万一四五一円となる。

3 一般経費 一〇〇万二四一七円

売上金額五七九万四三一七円に別紙六から得られる同業者の一般経費率〇・一七三(平均差益率〇・五三一四-平均所得率〇・三五八四=〇・一七三)を乗じて一般経費を一〇〇万二四一七円と推計した。

4 雇人費 六三万六〇〇〇円

原告橋川申立による給与支給総額による。

5 建物減価償却費 一万二八五二円

昭和三八年分5と同様に、昭和三七年分の償却額をもって昭和三九年分償却額とした。

6 事業所得金額 一〇四万二一四二円

右1の売上金額五七九万四三一七円から右2の売上原価二七五万五七〇六円と右3の一般経費一〇〇万二四一七円とを控除して算出所得金額二〇三万六一九四円を得、これから右4の雇人費六三万六〇〇〇円、建物減価償却費一万二八五二円及び専従者控除三四万五二〇〇円を差し引くと、事業所得金額は一〇四万二一四二円となる。

7 配当所得 六万六六五〇円

原告橋川所有の株式に異動がなく、昭和三八年分7と同様である。

第五被告署長らの主張に対する原告らの認否及び本件更正処分の違法事由についての主張

(認否)

(原告柳坂)

一  推計の必要性について

1 被告四谷署長の主張1のうち、係官が原告柳坂方に臨場し帳簿書類の呈示を求めたのに対し、同原告が資料はあると思うが探してみないと分らない旨答え、これを呈示しなかったこと、民商事務局員が同席したことは認める。推計の必要性については争う。

2 同2、3の調査は形式的に行ったものにすぎない。

二  本件更正処分の根拠について

売上差益率の認定方法については不知、その余は争う。

(原告小林)

一  推計の必要性について

1 被告四谷署長の主張1のうち、係官が原告小林方に臨場し帳簿書類の呈示を求めたこと、同原告が昭和三九年三月一日から同年一二月三一日けで分の帳簿、納品書、請求書、領収証を呈示したことは認め、その余の事実及び推計の必要性は争う。

2 同2、3の調査は形式的に行ったものにすぎない。

二  本件更正処分の根拠について

昭和三八年分については全部争う。昭和三九年分中、2(一)の(2)の雑収入が〇円であること、(5)の当該期間中に納付した公租公課七万三二二〇円中の固定資産税、都市計画税の各税額が同被告主張のとおりであること(家事関連費割合を除く。)」、(6)の支払利息の額が同被告主張のとおりであること(同上)、(7)の車両売却損が〇円であること、(8)の減価償却費の額が同被告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

(原告橋川)

一  推計の必要性について

1 被告淀橋署長の主張1のうち、係官が原告橋川方に臨場し帳簿書類の呈示を求めたこと、同原告が請求書、領収証などの資料(但し、一部ではなく全部である、)を呈示したことは認めるが、その余の事実及び推計の必要性は争う。

2 同2、3のうち、係官が昭和四一年一一月二四日同原告方に臨場し、同原告が昭和三八年分及び同三九年分の領収証、納品書を呈示したことは認めるが、その余は争う。

二  本件更正処分の根拠について

1 被告淀橋署長が更正処分の根拠として主張する推計方法は、同被告の昭和五四年三月一日付の準備書面において従前主張していた推計方法を変更して新たに主張されるに至ったものであるが、時機に後れた攻撃防禦方法として却下すべきである。

2 右主張の推計方法のうち、昭和三八年分及び同三九年分につき、原告橋川がそばを製造する場合のそば粉と小麦粉の混合割合が一対一であること、小麦粉一袋(そば粉の場合は半袋)からとれる食数は玉うどんと店売用そばが二〇〇食、店売用うどんが二三〇食であること、同原告の家族が同原告を含めて五名であり、雇人は住込一名、通い一名であること、飲物の単価が同被告主張のとおりであること、雇人費、建物減価償却費、専従者控除及び配当所得の額がいずれも同被告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。特に玉うどんと店売用うどん・そばの販売数量割合が四〇パーセントと六〇パーセントであるとする点は根拠がなく、右割合は売上金額についてのものである。

(本件更正処分の違法事由の主張)

一  手続上の違法

1 調査の必要性の欠

申告納税制度を原則としている以上、税務署長が例外的に更正するため調査を行う場合には、納税者の申告を疑うに足る十分な理由の存在が必要である。しかるに、本件においては、被告署長らは原告らの確定申告に何の疑わしい点も見出していないのに、単に右確定申告が正しいかどうかを調べるために調査を行ったものであるから、かかる違法な調査に基づく本件更正処分は違法である。

2 質問検査権の範囲を超えた調査

質問検査権の行使については、調査が任意調査であることから、事前通知を欠く臨場調査に対して被調査者が調査の延期を求めうることは当然であり、被調査者の依頼した第三者が調査に立ち会うことも何ら違法なことではない。そして、調査は合理的な必要性がなければ行ってはならないのであるから、被調査者は税務職員に対し調査の必要性の開示を要求することができ、税務職員がこれを開示しない限り調査を拒否することができ、また、質問検査権に基づく調査は納税者の得意先や銀行等に対する信用を失墜させるような態様で行うことは許されず、特にいわゆる反面調査の相手方は直接に納税義務を負うものではないし、また、法により法定資料の提出を義務付けられたものでもないから、その行使の範囲は極めて厳格に解すべきであり、この場合の質問検査権の行使は、納税者の調査の過程においてその調査だけではどうしても課税標準及び税額等の内容を把握できないことが明らかになった場合に限り、かつ、その限度において可能であると解すべきである。

しかるに、本件においては、被告署長ら所部係官は、全く事前通知をすることなく、いきなり臨場調査にきて、その調査の合理的必要性を開示しないまま資料の呈示を求め、原告らがいずれも資料を呈示しあるいは当日見当たらない資料については近日中に探しておく旨約束しているにもかかわらず、即日取引先等に対する反面調査を行い、原告らに信用失墜その他多大の損害を被らせた。そして、原告柳坂の場合には、このような反面調査を行った理由について係官にただしたのに対してもこれに答えず、新宿民商の事務局員が違法な調査が繰り返されないよう立ち会ったのについてもその立会を拒否したのである。

このように被告署長らの本件調査は明らかに質問検査権の権限を超える違法なものであるから、これに基づく本件更正処分も違法である。

3 他事考慮

本件調査は調査に名をかりた新宿民商会員脱会工作の一つであり、原告らの確定申告に何ら合理的疑いがないにもかかわらず調査を行い、かつ、原告らの承諾を得ることなくいきなり反面調査を行って原告らの取引先及び銀行等に対する信用を失墜させたものであり、もっぱら原告らを新宿民商から脱会させる目的あるいは同原告らが新宿民商から脱会しないことに対する報復の目的でなされたものであることが明らかであるから、このような目的に基づいた調査及び本件更正処分は違法である。

二  推計の合理性を欠いた違法

1 処分時における資料の不存在(本件訴訟の対象)

本件において仮に推計課税が許されるとしても、本件訴訟の対象は、被告署長らが本件更正処分の当時において右処分をなしうるだけの合理的な調査資料、調査結果を有していたか否かであって、本訴提起後に被告署長らが新たな資料と推計方法によって主張する所得金額等が客観的に正当なものであるか否か、更正処分の認定した所得金額等が右客観的に正当な数額を超えるものであるか否かではない。すなわち、更正処分時において被告署長らが更正するに足る納得しうる合理的な、しかも正当な手続により得たところの調査結果と資料を持たなければ、その更正はそれだけで絶対に取り消さなければならないのである。なぜなら、第一に、国税通則法二四条は「課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときはその調査により当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する。」と規定し、更正時において合理的な調査結果と資料が存在することを要求するとともに、その調査によってのみ更正しうることを定めているからであり、第二に、もし課税庁が更正時において何らの納得させうる資料も持たないで申告納税額を勝手に更正することができ、裁判となるや、ただ所得の在り高が妥当かどうかだけが争われるということが是認されるのであれば、行政処分における適正手続の要請は全く無意味になり、大多数の国民は経済的、時間的にこのような恣意的な課税処分を争うほどの余裕がない以上、国民の財産権は課税庁の恣意によって侵害される結果となるからである。

本件において、被告署長らは、更正処分当時に把握した更正の理由とは無関係に、訴訟提起後に新たに構成した論拠や数額による推計を主張しているが、かかる方法によって処分を維持することは許されない。

2 推計方法の不合理性

(原告柳坂について)

被告四谷署長は、同業者の平均売上差益率による推計方法を主張しているが、その標本抽出にあたっては、業態の著しく異なるものと規模の著しく異なるものを除外したというだけであるから、同種同規模の同業者を選択したというには程遠いものである。また、洋服仕立業は店の立地条件、顧客層、職人の技倆等によって販売価格が全く異ることは常識であり、これらの点を具体的に比較検討することなく平均値を出してみても意味はない。原告柳坂は紳士服と婦人服を半々位に扱っており、紳士服と婦人服の差益率はかなり違うのであるから、同業者を選ぶ場合にはこの割合もほぼ等しいものでなければならない。これらの点から、同被告の主張が原告柳坂の売上金額を合理的に推計したものでないことは明らかである。

(原告小林について)

被告四谷署長は、原告小林の昭和三九年三月一日から一二月末日までの収支計算を基礎として算定した所得率によって昭和三八年分及び同三九年分の所得を推計しているが、右所得率は原処分の段階では二二・五六パーセント、審査段階では一八・九パーセント、本訴では三九・二七パーセントと変化しており、これは右数値が客観性を欠くことを如実に示すものに外ならない。また、同原告は開業後間もなくであり、交際費や得意先開拓のためのリベート等に多大の経費を使用したが、このような経費を度外視した同被告の所得率の算定は合理性を欠くものである。更に、開業後間もない時期においては、年々の所得率がかなり変る場合が多いと考えられるから、昭和三九年分の所得率を昭和三八年分に機械的に当てはめることには合理性がない。

(原告橋川について)

被告淀橋署長の主張する推計方法は、推計の基礎となるべき小麦粉とそば粉の割合すらはっきりせず、そこから玉うどん、店売用そば・うどんの売上数量を推計し、それに売上単価の平均をかけて総売上額を計算するというように推計を重ねるものである。一度の推計ですら実額と喰い違う可能性は大きいのに、それを何度も重ねるということになれば誤差は極めて大きくなり、実額と懸け離れた結果になることは明らかだといわなければならない。更に、同被告は仕入袋数からたね物・打粉に使用された袋数を推定して控除しているが、うどん、そば製造の際には、機械についたり切るとき断ち落としたりするロスが約五パーセントはできるのであって、これを全く無視した右推計は不合理である。また、売上単価の推計方法についても、同原告が各品目別の売上割合につき「もり・かけが大体五〇から四〇パーセントで残りの半分がきつね・たぬきで後が月見・天ぷら等です。」と申し立てたのを根拠に、もり・かけが四五パーセント、きつね・たぬきを二七・五パーセント、月見・天ぷらを二七・五パーセントと計算し、この割合に各品目の売上単価を乗じて算出しているが、これは極めてあいまいな数字をいい加減に繰作しているものであり不合理である。また、所得の算出にあたって用いられた同業者率は、各業者の立地条件、顧客、数、営業年数、店舗の広さ等その具体的な内容が明らかにされない限り、何らの合理性をも有しないといわねばならない。

第六原告らの違法事由の主張に対する被告署長らの反論

一  手続上の違法について

1  納税申告制度の下において、税務署長は税負担の公平を保つため納税者の申告が正しいかどうかを確認する責任を有し、調査は右要請の下に納税者の申告が正しいかどうかを確める必要がある場合に行われるものであって、納税者の申告を疑うに足る十分な理由が存在しなければ調査を行ってはならないというものではない。本件において被告署長らが調査を行った理由は、次のとおりである。

まず、原告柳坂については、被告四谷署長が同原告提出の昭和三九年分確定申告書を審査したところ、収入金額に対する必要経費の額の割合が他の同業者に比べ過大であり所得金額が低調であると認められたので、収入金額及び必要経費の適否について確認する必要があると判断し、同原告を調査対象に選定した。

原告小林については、同原告は昭和三八年中に新宿区本塩町二二-五一、宅地二一・一三坪及び同所所在建物を取得したところ、右取得資金の一部四二一万円は他からの借入金であり、これを毎月五万円ずつ返済しているとのことであるのに、同原告が申告した所得金額からは昭和三八年及び同三九年のいずれにおいても右借入金の割賦返済が不可能であると認められ、更に、同原告の申立によれば同原告の得意先は日本青写真株式会社一社だけであるとのことであるのに、被告四谷署長が収集した取引資料によれば昭和三八年中における取引先は他にもあることが判明したことなどから、同被告は同原告が連年にわたり所得を過少に申告している疑いがあると判断し、同原告を調査対象に選定した。

原告橋川については、被告淀橋署長は、同原告に対して昭和三六年以降簡易な調査(事業の概要等を把握するために一日一五件程度の割合で行う臨店調査)を昭和三七年中に一回実施しているだけで実額調査を実施していないこと、同原告は主要仕入先に別口口座を設けて原料を仕入れており、右別口仕入分に係る所得が本件各年分の確定申告書に反映されていないおそれがあると認められたこと、同原告が昭和三七年中に家族の名義で東京電力株式会社の株式を合計五〇〇〇株(額面評価二五〇万円)を取得しており、更に昭和三八年における右会社の三分の一増資に際して合計一六六六五株(二割無償、払込金額六六万六〇〇〇円)を取得しているが、同原告が提出した昭和三七年及び同三八年分の確定申告書によれば事業所得金額は各々三〇万二九七六円(事業専従者控除前でも六六万二九七六円)及び三二万〇九九六円(同五四万二二四六円)であるところから、右株式の取得及び増資払込の資金源泉を調査する必要があると判断し、同原告を調査対象に選定した。

2  質問検査権は調査の一方法として認められているものであって、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との較量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているのであり、実施の日時、場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知が質問検査を行ううえの法律上の要件とされているものではない。

3  本件において、被告署長らが調査を実施した理由は前記のとおりであって、決して新宿民商脱会工作等の目的をもって調査及び更正処分を行ったものではない。

二  推計の不合理性について

1  課税処分の取消訴訟において、税務署長のなした課税標準等、税額等の認定の当否は、もっぱらその認定した数額が客観的に正当な数額を超えるものであるか否かによって判断さるべきものであり、その判断資料が更正処分当時までに収集されたものに限るとすべき理由はない。国税通則法二四条の規定は同原告ら主張のような手続的な制限を定めたものと解することはできない。課税処分のような 束処分については、裁判所は直接に行政庁の認定が法律に適合しているかどうかを判断しうるのであるから、更正処分時に収集されていなかった資料を用いて訴訟において主張立証することが可能であるからといって、恣意的な課税処分が自由にできることになるわけではない。

2  推計方法について

(原告柳坂について)

被告四谷署長は、前記のように、管内に事業所を有し業種目が「洋服」又は「洋服仕立」となっている青色申告個人業者を選び出し、その中から原告柳坂の業態に類似している者を精査するため一定のものを除外したが、そのようにして選定されたものは同原告と同様にいわゆるテーラーと呼ばれている納税者であり、事業規模についていえば、同一業種内における事業規模の大小は売上金額若しくは仕入金額の多寡によって判定することが相当であると認められるところから、仕入金額が同原告の半分ないし二倍の範囲内の者をもって同原告の事業規模に近似している者と認定したのである。なお、同原告の業種においては店の立地条件、顧客層、職人の技倆等によって差益率にさしたる開差は認められないのである。

(原告小林について)

所得率は売上金額、売上原価及び必要経費額により算定される。したがって、必要経費が実額で把握されている場合に売上計上洩れが新たに判明すれば、所得率が上昇するのは当然である。

(原告橋川について)

原告橋川の所得金額の算定は、前記のごとく、反面調査により確認しえた小麦粉の仕入袋数、同原告の申立、淀橋麺業組合の協定価格、淀橋税務署管内で青色申告をしている同業者全員の同業者率及びその平均単価を基礎として算定したのであって、合理性の高い算定方法である。なお、うどん、そば製造の際のロスについては、小麦粉一袋当たりの製造玉数の算定において考慮ずみである。

第七証拠

一  原告ら

1  甲第一ないし第三号証、第四、第五号証の各一、二、第六ないし第一三号証、第一四号証の一ないし一七、第一五号証、第一六証の一ないし四、第一七号証の一、二、第一八ないし第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二号証の一ないし一二、第二三号証

2  証人内田武、同田崎義成の各証言、原告柳坂忠義、同小林昭、同橋川寅之助の各本人尋問の結果

3  乙第一号証の三、四、第二号証の一二の一、二、第四号証の一ないし三の成立はいずれも認める。その余の乙号各証の成立はすべて不知(但し、乙第一号証の一の一、第一号証の二の一、二、第二号証の三、四の各公印部分の成立は認める。)。

二  被告ら

1  乙第一号証の一の一ないし五、第一号証の二の一、二、第一号証の三、四、第二号証の一ないし一一、第二号証の一二の一、二、第三号証の一ないし二四、第四号証の一ないし三

2  証人中尾政敏、同岸部義彦、同武井竹一、同鈴木正男、同渋谷七郎、同西谷泰治、同山口盛久、同川越重孝、同倉持秀雄、同土橋弘、同須田和雄、同今重進、同松島一海の各証言

3  甲第一四号証の一ないし一七、第二三号証の各原本の存在並びに成立は認める。第二〇号証の成立は認める。第三号証、第四、第五号証の各二、第六、第七号証は各官公署作成部分の成立を認め、その余の部分の成立は不知。第二一号証の一、二の撮影年月日及び撮影者は不知、その余の部分の成立は認める。その余の甲号各証の成立(第一五号証、第一六号証の一ないし四、第一七号証の一、二、第一八号証については原本の存在並びに成立)はすべて不知。

理由

一  まず、本件更正処分取消請求について判断する。

1  請求原因一、二1の事実は当事者間に争いがない。

2  推計課税の必要性

(原告柳坂について)

証人中尾政敏、同渋谷七郎の各証言に弁論の全趣旨を合せれば、被告四谷署長所部の係官が昭和四〇年九月一五日及び一八日原告柳坂方に臨場し、本件係争年の確定申告に係る所得金額の計算内容を明らかにする帳簿書類の呈示を求めたが、同原告は、売上や仕入を記帳した帳簿はないといって注文寸法帳二冊及び収支明細書なる一枚のメモを呈示したのみであり、それ以外の資料を一切呈示せず、また経費等に関する計算根拠も明らかにしなかったこと、同原告は、異議手続においても資料を呈示せず、審査請求審理の段階に至ってはじめて東京国税局長所部の担当協議官に仕入関係の請求書、納品書、領収証などの一部を提出するに至ったが、これによっても収支の実額を把握することはできなかったことを認めることができ、右認定に反する証人田崎義成の証言(一部)及び原告柳坂本人尋問の結果は採用せず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。この事実によれば、被告四谷署長が推計により同原告の所得金額を算出したのはやむをえないことであり、適法というべきである。

(原告小林について)

証人武井竹一、同鈴木正男、同山口盛久の各証言によれば、被告四谷署長所部の係官が昭和四〇年九月三、四日の両日にわたり原告小林方に臨場し、本件係争年の確定申告に係る所得金額の計算内容を明らかにする帳簿書類の呈示を求めたところ、同原告は、昭和三九年三月一日から同年一二月三一日までの間の収支を記載した帳簿と納品書、請求書、領収証を呈示した(このことは当事者間に争いがない。)が、同年一、二月分及び昭和三八年分については帳簿も原始記録もない旨申し立てて呈示しなかったこと、異議及び審査請求の段階においても右と全く同様であり、同原告の右期間中の収支の実額を把握することができなかったことを認めることができ、右認定に反する原告小林本人尋問の結果は採用せず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。この事実によれば、被告四谷署長が推計により同原告の所得金額を算出したのはやむをえないことであり、適法というべきである。

(原告橋川について)

証人西谷泰治の証言により成立の真正を認める乙第二号証の一、二、証人岸部義彦、同西谷泰治の各証言によれば、被告淀橋署長所部の係官が昭和四〇年九月ころ原告橋川方に臨場し、本件係争年の確定申告に係る所得金額の計算内容を明らかにする帳簿書類の呈示を求めたが、同原告は、帳簿書類を備えつけておらず、請求書や領収証などの一部の資料を呈示したのみで、その他の資料の呈示や説明をせず、その後同係官が再三連絡しても面接することができなかったこと、異議及び審査請求の段階においても、請求書や領収証の一部が呈示されただけであり、その間、同原告は、他にも請求書等があるので整理しておく旨審査担当協議官に申し出ながら、結局は協力しなかったこと、このため同原告の収支の実額を把握することができなかったことを認めることができ(右請求書等が呈示されたことは、それが全部であるか一部であるかを除き、当事者間に争いがない。)右認定に反する原告橋川本人尋問の結果は採用せず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。この事実によれば、被告淀橋署長が推計により同原告の所得金額を算出したのはやむを得ないことであり、適法というべきである。

3  手続上の違法事由の存否

(一)  調査の必要性について

所得税法に基づく調査は、過少申告の疑いが明らかである場合だけに限らず、申告の正確性を審査すべき合理的必要性のある場合になしうるものと解するのが相当である。

本件についてみるに、証人中尾政敏の証言によれば、被告四谷署長は原告柳坂提出の昭和三九年分確定申告書を審査したところ、収入金額に対する必要経費の額の割合が他の同業者に比べて過大であり所得金額が低調であると認められたので、収入金額及び必要経費の正確性について確認する必要があると判断して同原告を調査対象に選定したものであること、証人武井竹一の証言によれば、被告四谷署長は、原告小林が昭和三八年中に他からの借入金によって宅地及び建物を取得し、右借入金を毎月五万円ずつ返済しているのに、同原告が申告した所得金額からは右借入金の割賦返済が不可能であると認められ、更に、同原告が得意先は日本青写真株式会社一社だけであると申し立てていたのに、昭和三八年中における取引先は他にもあることが判明したことなどから、同原告が所得を過少に申告している疑いがあると判断して同原告を調査対象に選定したものであること、証人岸部義彦の証言によれば、被告淀橋署長は、原告橋川につき、昭和三六年以降簡易な概況調査以外の調査を実施していないことに加え、同原告が裏口仕入をしていることを疑わしめる資料があり、更に、昭和三七年中に同原告が家族名義で東京電力株式会社の株式合計五〇〇〇株を取得していることなどから、同原告の所得を調査する必要があると判断して同原告を調査対象に選定したものであることがそれぞれ認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。右事実からすると、同原告らについては調査をすべき合理的必要性があったことは明らかである。

(二)  質問検査権の範囲を超えた違法について

質問検査権の行使について、相手方に対する事前の通知及び調査理由ないし調査目的の開示は、いずれも調査を行ううえの法律上の要件ではないから、被告署長らが原告らに対し事前通知や調査理由の開示をすることなく調査を行ったとしても、これのみをもって違法とすることはできない。また、調査に際して当然に相手方の依頼した第三者の立会を認めなければならない根拠はなく、更に、同原告らが前示のとおり調査に必要な帳簿書類を呈示しなかった以上、被告署長らが反面調査を実施したこと自体をもって違法とすることもできないというべきである。

(三)  他事考慮について

前記(一)認定の事実に照らせば、本件の調査及び更正処分が原告ら主張の他事考慮に基づくものであったとは到底認めることができず、右主張に沿う証人田崎義成の証言及び同告柳坂、同小林、同橋川各本人尋問の結果は採用しない。

4  推計の合理性

(一)  推計資料等の追加変更について

課税処分取消訴訟の審判の対象は当該処分の違法性一般であり、実体的には当該処分の認定した課税標準又は税額が過大であるか否かによって処分の適否が決せられるのであって、右課税標準又は税額を認定するための推計方法などは単なる攻撃防禦方法にすぎないと解されるから、推計課税を争う訴訟において、課税庁が当該処分の適法性を理由付けるため処分時とは異なる資料や推計方法を主張することは何ら妨げられないものというべきである。もとより、当初の課税処分が恣意によって行われたときは違法となりうるが、訴訟において推計資料等を追加変更したからといって、直ちに当初の推計が恣意的なものであったことになるわけではない。そして、証人中尾政敏、同武井竹一、同岸部義彦の各証言に徴すれば、被告署長らが本件更正処分の当時にした推計は、それ相当の首肯しうる調査と根拠とに基づいたものであって、恣意に出たものではなかったことを認めるに十分である。

(二)  原告柳坂に関する推計方法と所得金額について

同原告の所得金額の算定については、売上金額を実額で把握することができないので、売上(仕入)原価を基礎として、これに同原告と事業規模の類似する同業者の平均売上差益率五九パーセントを適用して売上金額を推計する方法が主張されている。そして、証人川越重厚の証言によって成立の真正を認める乙第一号証の一ないし五、第一号証の二の一、二(第一号証の一の一、第一号証の二の一、二の公印部分の成立は争いがない。)及び同証言によれば、被告四谷署長が管内に事業所を有する青色申告個人業者で業種目が洋服又は洋服仕立となっている者のうちから同被告主張のとおりの基準に適合するものとして抽出した一一業者につき昭和三九年分の売上金額及び売上差益金額を調査したところ、同被告主張の表のとおりであったことが認められ、同表の売上差益金額を売上金額で除して右一一業者の平均売上差益率を求めると、加重平均で五九・五六パーセント、単純平均で五九・一八パーセントとなる。

同原告は、右売上差益率算定の基礎となった同業者の抽出について、同種同規模の基準が守られていないこと、店の立地条件、顧客数、職人の技倆等の具体的な比較検討が行われていないこと、同原告が紳士服、婦人服を半々位に扱っており、紳士服と婦人服とでは売上差益率が違う点が考慮されていないことを挙げて、右推計方法が合理性を欠くと主張する。しかし、本件で採用された抽出基準は、同原告と業態の異なる者を除外し、かつ、仕入金額が同原告の仕入金額の二倍ないし半分の範囲の者に限定することによって営業規模の類似性を担保しているのであるし、また、このような同業者の平均値を採用した場合には、右同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は当該平均値に吸収されているものとして無視して妨げなく、個別的にこれを斟酌しなくても合理性が失われるものではない。更に、原告柳坂本人尋問の結果によれば、同原告は紳士服を七割位、婦人服を三割位の割合で仕立てているが、紳士服と婦人服の仕立の差益率はどちらが大きいと決ったものではなく、業者によって違いがあり、同原告の場合は紳士服の差益率のほうが大きかったことが認められるので、紳士服と婦人服の仕立割合が同原告と同程度の同業者に限定することなく平均差益率を求めても、それによって同原告に格別の不利益をもたらすものとはいいがたい。したがって、右主張は採用することができない。

してみると、他に特段の事情のない限り、前記方法による推計は客観性を有し合理的なものというべきである。

そこで、右推計方法によって所得金額を算定すると、次のとおりとなる。

(1) 売上金額

次に述べる(2)の売上(仕入)原価二三〇万七八七八円に前記平均売上差益率五九パーセントを適用すると、五六二万八九七〇円となる。

(2) 売上(仕入)原価

成立に争いのない乙第一号証の三、四によれば、売上(仕入)原価は二三〇万七八七八円であったことが認められる。

(3) 一般経費、雇人費、建物減価償却費

右乙第一号証の三、証人中尾政敏、同渋谷七郎の各証言によれば、一般経費は六三万五四九四円、雇人費は九三万円、建物減価償却費は六六四〇円であったことが認められる。

(4) 所得金額

右(1)から(2)(3)を控除すると、所得金額は一七四万八九五七円となり、本件更正額を上まわる。

(三)  原告小林に関する推計方法と所得金額について

同原告の所得金額の算定については、収支計算が実額で判明している昭和三九年三月一日から同年一二月末日までの分の数値によって、所得率三九・二七パーセントを求め、昭和三八年分及び同三九年一、二月分も同一の収支割合であったとの推定のもとに、その間の売上金額に右所得率を乗じて事業所得金額を推計する方法が主張されている。

ところで、右所得率算定の基礎となった昭和三九年三月一日から同年一二月末日までの間の収支計算についてみると、証人須田和雄の証言によって成立の真正を認める乙第三号証の一ないし四、同号証の八ないし一二、同号証の一五ないし一七、証人鈴木正男の証言によって成立の真正を認める乙第三号証の一八、証人武井竹一の証言によって成立の真正を認める乙第三号証の二〇、証人武井竹一、同山口盛久の各証言によれば、被告四谷署長の主張する修正後の収支計算額のとおりであることを認めることができる。すなわち、同被告が同原告の作成した収支計算に修正を加えた科目についていえば、〈1〉売上収入額が一〇〇六万一三八七円を下らないことは右乙号各証によって認められ、〈2〉雑収入が〇円であることは当事者間に争いがなく、〈3〉期末及び期首のたな卸額がほぼ同額であったことは証人山口盛久の証言により認められ、〈4〉支払額に争いのない公租公課及び利息の額につき固定資産の事業占用割合を五割とみるべきことは乙第三号証の二〇及び証人武井竹一の証言により認められ、〈5〉車両売却損が〇円であること及び減価償却額が二〇万七四五二円であることは当事者間に争いがない。したがって、右修正後の計算による利益額三九五万一九四九円を売上収入額一〇〇六万一三八七円で除して所得率を求めると、三九・二七パーセントとなる。そして、証人武井竹一の証言によれば、同原告の業況は昭和三九年中と昭和三八年中とで著変がなかったことが認められる。

同原告は、右所得率が原処分、審査裁決及び本訴においてそれぞれ異なる数値となっているのは客観性のない証拠である旨主張するが、前掲各証拠によれば、当該期間中の必要経費は実額で把握されていたところ、審査段階では、原処分に一部たな卸計上洩れがあるのを修正したため所得率が原処分より低下し、次いで、本訴においては、訴訟提起後の調査により新たな売上計上洩れが判明し、売上額が増えたため所得率が上昇したものであることが認められるので、右所得率の変化から、それが客観性を欠くということは当をえない。また、同原告は、開業後間もないために多額の交際費やリベート等を支出したのに所得率算定上これが経費として考慮されていないとも主張する。しかし、同原告は経費を自ら記帳していたものであって、そのほかになお右の支出をしたかのごとく供述する同原告本人尋問の結果はたやすく採用しがたく、他に右支出の事実を認めるに足る証拠はない。

してみると、他に特段の事情のない限り、右所得率をもって昭和三八年分及び同三九年分の所得金額を推計することは客観性を有し合理的なものというべきである。

そこで、右推計方法によって所得金額を算定すると、次のとおりとなる。

(昭和三八年分)

(1) 売上金額

証人鈴木正男の証言によって成立の真正を認める乙第三号証の一ないし一〇、同号証の一三ないし一六によれば、昭和三八年中の売上金額は七六四万〇五四一円であって、その内訳は被告四谷署長主張のとおりであることが認められる。

(2) 事業所得金額

右(1)の売上金額に前記所得率三九・二七パーセントを乗じて推計すると、三〇〇万〇四四〇円となる。

(3) 不動産所得金額

証人武井竹一、同山口盛久の各証言、原告小林本人尋問の結果と弁論の全趣旨を合せると、同原告は、不動産所得として六万八〇〇〇円を申告したが、ほかに斉藤正一に対する作業場賃貸料四万五〇〇〇円の収入があり、これに不動産所得の平均的所得割合を乗じた不動産所得金額は三万五七三〇円となることが認められる。したがって、申告額との合計は一〇万三七三〇円である。

(4) 所得金額

右(2)(3)を合算すると、所得金額三一〇万四一七〇円となり、本件更正額を上まわる。

(昭和三九年分)

(1) 売上金額

前掲乙第三号証の一ないし四、同号証の八ないし一二、同号証の一五ないし一八によれば、昭和三九年中の売上金額は一一四八万一〇二六円であって、その内訳は被告四谷署長主張のとおりであることが認められる。

(2) 事業所得金額

右(1)の売上金額に前記所得率三九・二七パーセントを乗じて推計すると、四五〇万八五九八円となる。

(3) 不動産所得金額

原告小林本人尋問の結果により成立の真正を認める乙第三号証の一九、証人武井竹一、同山口盛久の各証言、同原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を合せると、同原告は、不動産所得として一三万五〇〇〇円を申告したが、ほかに昭和三八年分と同様の斉藤正一に対する作業場賃貸料収入一八万円の収入があり、これに不動産所得の平均的所得割合を乗じた不動産所得金額は一四万二九〇〇円となることが認められる。したがって、申告額との合計は二七万七九〇〇円である。

(4) 譲渡損失

証人武井竹一の証言と弁論の全趣旨によれば、車両の譲渡損失九万五〇〇〇円のあったことが認められる。

(5) 所得金額

右(2)(3)の合計額から(4)を控除すると、四六九万一四九八円となり、本件更正額を上まわる。

(四)  原告橋川に関する推計方法と所得金額について

同原告の所得金額の算定については、おおむね次のような推計方法が主張されている。すなわち、〈1〉まず、玉うどん及び店売用うどん・そばについては、反面調査により判明した小麦粉の仕入袋数を基礎に、うどんとそばの販売数量割合やそば製造の際の小麦粉とそば粉の使用割合などからそば粉の仕入袋数を推定し、右小麦粉及びそば粉の仕入袋数のうちたねもの・打粉に使用される分を差し引き、残袋数に一袋当たりからとれるうどんとそばの食数を乗じて年間の総食数を求め、これから自家消費量を控除した食数に一食の売上単価(店売用うどん・そばに関しては各品目の平均売上単価)を乗じて売上金額を推計し、〈2〉冷麦、飯物、飲物については、それぞれの仕入数量から販売数量を推定し、これに売上単価(飯物に関しては同業者の平均売上単価)を乗じて売上金額を推計し、〈3〉次に、右各売上金額から控除すべき売上原価は、玉うどんについては小麦粉の仕入原価により、その他のものについては同業者の平均売上原価率により、これを推計し、〈4〉一般経費についても、同業者の一般経費率を適用して推計するという方法である。

同原告は、右推計方法の主張が時機に後れた攻撃防禦方法として却下されるべきである旨の申立をするが、訴訟の経過に照らせば、右推計方法が新たに主張されたことにより訴訟の完結が遅延するものとは認めがたいので、同原告の右申立は採用することができない。

ところで、同原告は、被告淀橋税務署長のした玉うどん及び店売用うどん・そばの売上金額の算定方法はあいまいな数字を基にした推計の積重ねであって合理性がないと主張する。しかし、右売上金額算定の基礎となる各種の数値のうちで正確な実額を把握しえないものが多岐にわたる以上、それに応じてある程度蓋然的な算定をせざるをえなくなるのはやむをえないところであり、これをもって直ちに不合理であるということはできない。また、同原告は、推計の基礎となった同業者の立地条件等が明らかにならない限り、その同業者率によることは不合理であるとも主張するが、後記のとおり、右同業者率は、同原告と同一地域で日本そば店を専業としている青色申告者全員を調査して得た平均的数値であって、同業者間に通常存在する程度の立地条件等の差異は右平均値に吸収されているものということができ、しかも、同原告の店が他の同業者と比べて普通程度であったことは同原告本人尋問の結果によって明らかである。したがって、同原告の右主張は失当である。

してみると、他に特段の事情のない限り、前記の推計方法は客観性を有し合理的なものというべきである。

そこで、右推計方法によって所得金額を算定すると、次のとおりとなる。

(昭和三八年分)

(1) 売上金額

〈1〉 玉うどん及び店売用うどん・そば

(イ) 証人西谷泰治の証言により成立の真正を認める乙第二号証の一、二、証人倉持秀雄の証言により成立の真正を認める同号証の七、証人土橋弘の証言により成立の真正を認める同号証の八、九、原告橋川本人尋問の結果(一部)によれば、昭和三八年中に同原告が仕入れた小麦粉は北東製粉株式会社から二四七袋、淀橋麺業組合から一九五袋、合計四四二袋であり、その代金は合計四八万六五四〇円(一袋当たり一一〇〇円七七銭)であったこと、そば粉の仕入は一五袋以上あったが、その実数は不明であること、同原告の店においては玉うどん、店売用うどん及び店売用そばの販売数量割合がほぼ四対三対三の割合であったこと、そばを製造する場合の小麦粉とそば粉の混合割合は一対一であったこと、仕入小麦粉のうち月平均一袋、年間一二袋がたねもの・打粉に使用され、残りが玉うどん及び店売用うどん・そばに使用されることが認められ、小麦粉一袋(そばについては小麦粉半袋とそば粉半袋)からとれる食数は、ほぼ、玉うどん及び店売用そばが二〇〇食、店売用うどんが二三〇食程度であったことは、当事者間に争いがない。右認定の販売数量割合については、前掲乙第二号証の一中の該当部分の記述の趣旨(販売数量割合か販売金額割合か)が必ずしも明瞭でないが、その前後の部分の記述や同原告本人尋問の結果と対比すると、販売数量割合が前記のとおりであると認めるのが相当であって、右本人尋問の結果中以上の認定に反する部分は採用しない。なお、前掲乙第二号証の七によれば、うどん・そば製造の際には粉のロスが五パーセントほど出ることが認められるが、右一袋当たりの食数についての乙第二号証の一及び同号証の七の記述はこれらのロスを計算に入れたうえでのものであることが窺われるので、重ねて控除する必要はない。

右事実に基づいて玉うどん・店売用うどん及び店売用そばに使用された小麦粉及びそば粉の袋数を計算すると、被告淀橋署長主張のとおりの算式により、玉うどんに小麦粉二一二袋、店売用うどんに小麦粉一三八袋、店売用そばに小麦粉及びそば粉各八〇袋となり、それぞれに一袋当たりの食数を乗ずると、玉うどん四万二四〇〇食、店売用うどん三万一七四〇食、店売用そば三万二〇〇〇食、合計一〇万六一四〇食となる。

(ロ) 同原告方が五人家族であり、雇人が住込一名、通い一名であることは、当事者間に争いがなく、前掲乙第二号証の一によると、これらの者が一日一食麺類をとっていたことが認められる。したがって、自家消費分は家族と住込雇人につき年間二一九〇食、通いの雇人につき年間稼動日数三〇〇日(前掲乙第二号証の一によれば同原告の店では週休制をとっていたことが認められる。)として三〇〇食、合計二四九〇食となる。

(ハ) 右(イ)の総食数から(ロ)の自家消費分を差し引いた一〇万三六五〇食のうち、玉うどんの販売数量割合は前記のとおり四〇パーセントであるから四万一四六〇食となり、これに弁論の全趣旨によって認められる一食一〇円の売上単価を乗ずると、玉うどんの売上金額は四一万四六〇〇円となる。

残り食数六万二一九〇食が店売用うどん・そばであり、これにその売上単価を乗じたものが店売用うどん・そばの売上金額となるが、前掲乙第二号証の一、証人倉持秀雄の証言により成立の真正を認める同号証の五によれば、同原告の店では、店売用うどん・そばの各品目別の売上割合がもり・かけ四〇ないし五〇パーセント、きつね・たぬきと月見・天ぷらがそれぞれ残りの半分程度であったこと、同原告が所属していた淀橋麺業組合の当時の協定価格は別紙二1の表記載のとおりであり、昭和三八年九月から各品目につき一〇円ずつ値上げされたことが認められるので、右もり・かけの売上割合を中間値の四五パーセントとして平均売上単価を合理的に計算すると、右別紙二1の算式のとおり五八円四四銭となる。したがって、店売用うどん・そばの売上金額は三六三万四三八三円となる。

〈2〉 冷麦

前掲乙第二号証の一、証人倉持秀雄の証言により成立の真正を認める同号証の六と弁論の全趣旨によれば、原告橋川の冷麦の年間仕入量は一〇〇食入りのもの一〇ないし一五箱であり、当時の一食当たりの売上単価は七〇円であったことが認められるから、仕入量を中間値の一二・五箱として計算すると、売上金額は八万七五〇〇円となる。

〈3〉 飯物

前掲乙第二号証の一及び原告橋川本人尋問の結果によれば、同原告の年間の米の仕入量は三ないし四俵であること、飯物一食の米の使用量は一合であり、年間仕入量を中間値の三・五俵とすると一万六八〇〇食とれること、前記の同原告の家族五名及び住込雇人一名は一日二食、通いの雇人一名(稼働日数三〇〇日)は一日一食飯物をとっており、自家消費分が合計四六八〇食となることが認められる。

ところで、証人倉持秀雄の証言により成立の真正を認める乙第二号証の四、前掲同号証の七によれば、被告淀橋署長が管内に事業所を有する個人の青色申告者で業種目が「そば」となっているもののうち日本そばを専業としている者について飯物一食当たりの平均売上単価を調査したところ、昭和三九年分については別紙四1の表記載のとおり平均一〇一円一九銭であったこと、右昭和三九年分の調査価格は昭和三八年九月から各品目とも一〇円ずつ値上げされた後のものであることが認められる。したがって、昭和三八年については、右値上げによる修正を加えた平均売上単価を求めなければならないが、被告淀橋署長の採用した別紙四1の修正方法は不合理なものではないから、これによると九三円四八銭となる。

右平均売上単価を前記自家消費分を除いた食数に乗ずると、飯物の売上金額は一一三万二九七七円となる。

〈4〉 飲物

証人土橋弘の証言により成立の真正を認める乙第二号証の一一によると、昭和三八年中のビール、二級酒、サイダー、ジュースの仕入量は被告淀橋署長主張のとおりであり、それぞれの売上単価については当事者間に争いがないので、結局、飲物の売上金額は二五万四八〇〇円となる。

(2) 売上原価

〈1〉 玉うどん

前記玉うどんの販売食数四万一四六〇食を小麦粉一袋当たりの食数二〇〇食で除すると、販売された玉うどんに使用された小麦粉の袋数二〇七・三袋が求められるので、これに前記の一袋当たりの仕入価格一一〇〇円七七銭を乗じた仕入原価二二万八一九〇円が玉うどんの売上原価となる。

〈2〉 玉うどん以外のもの

各品目ごとの売上原価を把握しえない場合には、全品目を一体とした同業者の平均的原価率を適用して推計することもあながち不合理なものということはできない。

ところで、前掲乙第二号証の四によれば、被告淀橋署長が管内に事業所を有する個人の青色申告者で業種目が「そば」となっているもののうち日本そばを専業としている者全員について昭和三八年分の売上金額、売上差益金額及び算出所得金額を調査したところ、別紙五の表記載のとおりであったことが認められる。したがって、これを単純平均した差益率は五二・四六パーセント、原価率は四七・五四パーセントとなり、右原価率を前記玉うどん以外のものの売上金額合計五一〇万九六六〇円に乗ずると、その売上原価は二四二万九一三二円となる(なお、被告淀橋署長は、加重平均値によって主張しているが、このような算定方法によれば、売上金額の多い同業者の平均率に占める比重、影響が大きくなるので、個々の同業者ごとに差益率、原価率を算定し、それを単純平均するほうが、特定の同業者の特殊な要素の支配する余地が少なく、より合理的な方法であるというべきである。)。

(3) 一般経費

その実額が判明しないので同業者率によって推計するほかないものと認められるところ、前記別紙五の表によれば、同業者の単純平均した所得率は三四・九八パーセントとなるので、これを前記の単純平均差益率五二・四六パーセントから差し引いた一七・四八パーセントが同業者の一般経費率をあらわすものということができる。したがって、これを総売上金額五五二万四二六〇円に乗ずると、一般経費は九六万五六四〇円となる。

(4) 雇人費、建物減価償却費、専従者控除

雇人費が五二万八〇〇〇円、建物減価償却費が一万二八五二円、専従者控除が二二万一二五〇円であることは、当事者間に争いがない。

(5) 所得金額

右(1)の売上金額から(2)ないし(4)の額を控除すると、事業所得金額は一一三万九一九六円となる。そして、これに当事者間に争いのない配当所得六万六六五〇円を合算すると、所得金額は一二〇万五八四六円となり、本件更正額を上まわる。

(昭和三九年分)

(1) 売上金額

〈1〉 玉うどん及び店売用うどん・そば

(イ) 前掲乙第二号証の七ないし一〇によれば、原告橋川が昭和三九年中に仕入れた小麦粉は北東製粉株式会社から三六五袋、淀橋麺業組合から三〇袋、池田製粉株式会社から二五袋、合計四二〇袋であり、その代金は合計四八万〇三五〇円(一袋当たり一一四三円六九銭)であったことが認められ、その他の事実及び証拠の関係は昭和三八年分(1)〈1〉(イ)と同様である。

したがって、昭和三八年分と同様の方法により計算すると、玉うどん及び店売用うどん・そばに使用された袋数は玉うどんに小麦粉二〇二袋、店売用うどんに小麦粉一三一袋、店売用そばに小麦粉及びそば粉各七五袋となり、それぞれに一袋当たりの食数を乗ずると、玉うどん四万〇四〇〇食、店売用うどん三万〇一三〇食、店売用そば三万食、合計一〇万〇五三〇食となる。

(ロ) 同原告方の家族と雇人の構成及び麺類の自家消費分は三八年分(1)〈1〉(ロ)と同様である。

(ハ) 右(イ)の総食数から(ロ)の自家消費分を差し引いた九万八〇四〇食に玉うどんの販売数量割合四〇パーセントを乗ずると、玉うどんの販売食数は三万九二一六食となり、これに弁論の全趣旨によって認められる一食一〇円の売上単価を乗ずると、玉うどんの売上金額は三九万二一六〇円となる。

残り食数五万八八二四食が店売用うどん・そばであり、これにその売上単価を乗じたものが店売用うどん・そばの売上金額となるが、昭和三八年分(1)〈1〉(ハ)摘示の証拠によれば、昭和三九年中の同原告方における店売用うどん・そばの平均売上単価は別紙二1のとおり六五円一二銭となることが認められるので、売上金額は三八三万〇六一八円となる。

〈2〉 冷麦

昭和三八年分(1)〈2〉摘示の証拠によれば、冷麦については、一食当たりの売上単価が八〇円であるほかは昭和三八年分と同様であったことが認められるので、その売上金額は一〇万円となる。

〈3〉 飯物

昭和三八年分(1)〈3〉摘示の証拠によれば、米の年間仕入数量、一食当たりの米の使用量、自家消費食数、販売食数は昭和三八年分と同様であり、同業者を調査した飯物一食当たりの平均売上単価は別紙四1記載のとおり一〇一円一九銭であったことが認められる。そして、右平均売上単価につき別紙四2のような修正を加えて売上単価を一〇〇円一六銭とすることは不合理ではないから、これを販売食数に乗ずると、飯物の売上金額は一二一万三九三九円となる。

〈4〉 飲物

前掲乙第二号証の一一によると、昭和三九年中のビール、二級酒、サイダー、ジュースの仕入量は被告淀橋署長主張のとおりであり、それぞれの売上単価については当事者間に争いがないので、結局、飲物の売上金額は二五万七六〇〇円となる。

(2) 売上原価

〈1〉 玉うどん

前記玉うどんの販売食数三万九二一六食を小麦粉一袋当たりの食数二〇〇食で除すると、販売された玉うどんに使用された小麦粉の袋数一九六・〇八袋が求められるので、これに前記の一袋当たりの仕入価格一一四六円六九銭を乗じた仕入原価二二万四二五五円が玉うどんの売上原価となる。

〈2〉 玉うどん以外のもの

前掲乙第二号証の四によれば、昭和三八年分(2)〈2〉と同様の方法により同業者の昭和三九年の売上金額等を調査した結果は別紙六の表記載のとおりであったことが認められ、これを単純平均した差益率は五三・二八パーセント、原価率は四六・七二パーセントである。したがって、右原価率を前記玉うどん以外のものの売上金額合計五四〇万二一五七円に乗ずると、売上原価は二五二万三八八七円となる。

(3) 一般経費

昭和三八年分(3)と同様に、前記別紙六の表によって同業者の単純平均所得率三五・三一パーセントを求め、これを前記の単純平均差益率から差し引いた一七・九七パーセントを総売上金額五七九万四三一七円に乗ずると、一般経費は一〇四万一二三八円となる。

(4) 雇人費、建物減価償却費、専従者控除

雇人費が六三万六〇〇〇円、建物減価償却費が一万二八五二円、専従者控除が三四万五二〇〇円であることは、当事者間に争いがない。

(5) 所得金額

右(1)の売上金額から(2)ないし(4)の額を控除すると、事業所得金額は一〇一万〇八八五円となる。そして、これに当事者間に争いのない配当所得六万六六五〇円と合算すると、所得金額は一〇七万七五三五円となり、本件更正額を上まわる。

5  以上により、原告柳坂、同小林、同橋川に対する本件各更正処分には同原告らの主張する違法事由はないから、右各更正処分の取消を求める同原告らの請求は失当である。

二  次に、原告柳坂、同小林は、右更正処分についての異議決定の取消を求めるが、同決定に固有の瑕疵があることにつき何ら主張するところがない。よって、右請求は失当である。

三  原告らの損害賠償請求について判断する。

1  原告らは、請求原因三1、2において、国税庁当局が民商の組織破壊を企図し、新宿民商に対して中傷、誹謗や脱会工作等を行ったと主張するが、これにそうかのごとき甲第一〇、第一一号証、第一四号証の一ないし一七、第一六号証の一ないし四、第一八、第一九号証、証人内田武、同田崎義成の各証言部分は、成立に争いのない乙第四号証の一ないし三、証人武井竹一、同今重進、同松島一海の各証言と対比してたやすく採用しがたく、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。

2  また、原告らは、請求原因三3において、本件の調査及び各更正処分が原告柳坂、同小林、同橋川を新宿民商から脱会させるため、あるいは同原告らが新宿民商から脱会しないことに対する報復のためになされたものである旨主張するが、本件全証拠をもってしても右事実を認めることはできない。

3  したがって、原告らの損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

四  以上のとおり、原告らの本件各請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 川崎和夫 裁判官 岡光民雄)

(別紙一) 処分一覧表

(一) 原告柳坂について

(昭和三九年分)

〈省略〉

(二) 原告小林について

(昭和三八年分)

〈省略〉

(昭和三九年分)

〈省略〉

(三) 原告橋川について

(昭和三八年分)

〈省略〉

(昭和三九年分)

〈省略〉

(別紙二)

1 店売用そば・うどんの一食当たりの売上単価 昭和三八年分五八円四四銭 昭和三九年分六五円一二銭

原告橋川方の各品目別売上割合は、もり・かけが四五パーセント、きつね・たぬきが二七・五パーセント、月見・天ぷらが二七・五パーセントである。右各品目別売上割合に次表の淀橋麺業組合の値上前及び値上後の協定価格(協定価格は昭和三八年九月一日から値上げされている。)を乗じて得た金額を加算して値上前五五円一二銭及び値上後六五円一二銭の売上単価を算出し、それぞれの売上単価に値上前月数割合一二分の八及び値上後月数割合一二分の四を乗じて計算すると、昭和三八年分の店売用そば・うどんの一食当たりの売上単価は五八円四四銭となる。昭和三九年分については右値上後の売上単価によれば足りる。

〈省略〉

(算式)

(1) 値上前の平均売上単価(昭和三八年一月一日から同年八月末まで)五五円一二銭

(もり・かけ四〇円×売上割合四五%)+(きつね・たぬき五〇円×売上割合二七・五%)+(月見・天ぷら八五円×売上割合二七・五%)=五五円一二銭

(注) 月見・天ぷら八五円は前記協定価格月見八〇円、天ぷら九〇円の平均をとった。

(2) 値上後の平均売上単価(昭和三八年九月一日から昭和三九年一二月末まで)六五円一二銭(もり・かけ五〇円×売上割合四五%)+(きつね・たぬき六〇円×売上割合二七・五%)+(月見・天ぷら九五円×売上割合二七・五%)=六五円一二銭

(3) (1)(2)の平均売上単価を更に期間計算によって補正した店売用そば・うどんの平均売上単価五八円四四銭

〈省略〉

2 店売用そば・うどんの一食当たりの売上単価五八円四四銭が妥当な価格であることは、次によっても説明できる。

すなわち、被告淀橋署長がその管内に事業所を有する個人の青色申告者で業種目が「そば」となっているもののうち日本そばを専業としている者について昭和三九年分のそば・うどんの一食当たりの平均売上単価(たねものを含む。)を調査した結果は、次表のとおりである。

〈省略〉

淀橋麺業組合の協定価格は昭和三八年九月一日から一〇円値上げされているので、月数按分して値上額を算出すると六円六六銭(一〇円×8月12月=約六円六六銭)になり、右表の平均値六六円一五銭から右月数按分値上額六円六六銭を控除すると、店売用そば・うどんの平均売上単価は五九円四九銭となり、原告橋川の場合の右売上単価五八円四四銭は右額よりやゝ内輪の価格となっている。

(別紙三)

飯物一食当たりの米の必要数量 一合

被告淀橋署長がその管内に事業所を有する個人の青色申告者で業種目が「そば」となっているもののうち日本そばを専業としている者について飯物一食当たりの米の使用料を調査した結果は、次表のとおり平均一合である。

〈省略〉

(別紙四)

飯物一食当たりの平均売上単価 昭和三八年分 九三円四八銭 昭和三九年分一〇〇円一六銭

1 被告淀橋署長がその管内に事業所を有する個人の青色申告者で業種目が「そば」となっているもののうち日本そばを専業としている者について飯物一食当たりの平均売上単価を調査したところ、昭和三八年分は判明しなかったが、昭和三九年分は次表のとおりであった。

〈省略〉

ところで、淀橋麺業組合の麺類の協定価格は昭和三八年九月一日から一〇円値上げをしたのに対し、飯物については組合で価格を指示しておらず業者の自由に任かせていたが、同業者は飯物についても一〇円刻みで値上げしているので、原告橋川も同額の値上げをしたものと推定される。そこで、右表の平均値につき右値上げに伴う次のような修正を加えて昭和三八年分の平均売上単価を算定した。

すなわち、組合の協定価格一〇円値上げによる原告橋川の店売用そば・うどんの一食当たり平均売上単価の値上額は六円六八銭(A)(値上後の平均売上単価六五円一二銭―昭和三八年平均売上単価五八円四四銭=六円六八銭。別紙二1参照)となり、また、被告淀橋署長が調査した同業者の平均売上単価六六円一五銭(別紙二2参照)と原告橋川の店の右値上後の平均売上単価との差額は一円三銭(B)となるが、飯物についても麺類同様に値上りがあったものとして右表の平均値一〇一円一九銭から右(A)の六円六八銭と(B)の一円三銭を控除して昭和三八年分の飯物一食当たりの平均売上単価を九三円四八銭とした。

2 また、昭和三九年分については、前記表の同業者平均値は一〇一円一九銭であるが、麺類について調査した昭和三九年分の同業者の平均売上単価と原告橋川の店の平均売上単価との間に前記のとおり一円三銭の差があるので、飯物についても同額の差があるものとして、一〇一円一九銭から一円三銭を差し引いた一〇〇円一六銭をもって昭和三九年分の飯物一食当たりの平均売上単価と推定した。

(別紙五)

被告淀橋署長がその管内に事業所を有する個人の青色申告者で業種目が「そば」となっているもののうち日本そばを専業としている者全員について調査した昭和三八年分の売上金額、売上差益金額及び算出所得金額は、次表のとおりである。「は」「お」「え」が欠けているのは昭和三九年以降青色申告の申請を行ったものでこれを除外した。

〈省略〉

〈省略〉

平均差益率 (B÷A) 〇・五二〇九

平均所得率 (C÷A) 〇・三四九九

平均原価率 (一―平均差益率) 〇・四七九一

(別紙六)

次表は別紙五と同様に昭和三九年分についてした調査結果の内訳である。

〈省略〉

〈省略〉

平均差益率 (B÷A) 〇・五三一四

平均所得率 (C÷A) 〇・三五八四

平均原価率 (一―平均差益率) 〇・四六八六

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